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2014年6月24日

太陽系外惑星の形成過程の理解に大きく前進!
~ガスハイドレード形成の研究に中性子粉末回折法で貢献~

1. はじめに

地球表層に広く存在しているガスハイドレート1) (気体包接化合物)は、資源としての可能性と地球環境との関わりから近年注目を浴びています。このガスハイドレートは水分子でできたケージ(籠)の中に種々のガス分子を取り込んだ構造になっていることが知られています。

今回の研究成果では、ガスハイドレートの構造が生成時の圧力によって変化することを明確にしました。また、最大エントロピー法(MEM)2) を飛行時間(time of flight : TOF)粉末中性子回折により観測されたデータに適用することで、ケージに取り込まれたガス分子の位置をより詳細に解明することに成功しました。

2. ガスハイドレートの構造について

宇宙空間における元素や物質の組成を研究するうえでガス分子は重要な要素であり、星が形成される過程のガス雲(原始太陽系星雲)では炭素原子(C)は重要な役割を持っています。原始太陽系星雲、惑星、彗星が形成される際には、広い温度・圧力範囲にわたって化学反応が起こり、様々なガスハイドレートが生成されます。

ガスハイドレートはその構造の違いによって構造I、構造II、構造Hの三つのタイプに分類することができます。なお、構造Hについては本稿で登場しないので説明を省きます。

構造I : メタンなどの比較的小さい分子をケージに取り込んだ時の構造
2つの12面体(512ケージ)と6つ14面体(51262ケージ)からなる。

構造I : メタンなどの比較的小さい分子をケージに取り込んだ時の構造

構造II : サイズが大きいガス分子(イソブタンやプロパンなど)をケージ内に取り込んだ時、逆に水素、窒素、酸素などの非常に小さい分子を取り込んだ時の構造
16個の12面体(512ケージ)と8つの16面体(51264ケージ)からなる。

構造II : サイズが大きいガス分子(イソブタンやプロパンなど)をケージ内に取り込んだ時、逆に水素、窒素、酸素などの非常に小さい分子を取り込んだ時の構造

まず、窒素(N2)と同じ大きさ、総電子数の一酸化炭素(CO)のハイドレートについてみてみます。炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)の原子の大きさ(=原子番号)に注目すると、それぞれの原子番号はC=6、N=7、O=8なのでCOとN2の大きさはどちらも14と同じになり、総電子数も同じになります。N2ハイドレートは構造IIであるため、同じ大きさのCOハイドレートも構造IIになると予想されますが、実際は条件によっては構造Iも生成されることが知られています。
このように、分子の大きさ、総電子数が同じであっても、生成される構造が異なる謎については、これまで理論的研究に基づき様々な説が提案されてきましたが、未だに決着が付いていませんでした。

3. 実験と解析

ガスハイドレートは、取り込まれるガス分子と水に圧力を加えることで生成されます。そこでロスアラモス国立研究所(アメリカ)のロスアラモス中性子科学センター(Los Alamos Neutron Science Center:LANSCE)の研究者を中心とする共同研究チームは低温・高圧下でCOハイドレートを生成し、生成条件と構造の変化について調べました。

まずガスハイドレートを生成する際の圧力・時間依存性について調べたところ、243 K(摂氏マイナス30℃)、 173 bar (1 bar = 105 Pa = 0.9869 atm) の条件下では、最初に構造Iと氷が生成され、時間の経過とともに一部が構造Iから構造IIに変換されました。そして構造IからIIへの変換がある程度進むと構造IIの出現が頭打ちになることがわかりました。
これは構造Iの51262ケージ(14面体)はCO分子を1つしか取り込めないのに対し、構造IIは1つ辺りの体積が大きい51264ケージ(16面体)内にCO分子を2つ取り込むことができるため、構造1つ辺りの体積が大きくなります。しかし高圧力がかかっているため、体積の増加が抑制され構造IIへの変換が頭打ちとなります。
ここで圧力を100 bar に下げると、抑制力が低くなり構造IIへの変換が顕著になり、最終的にはすべて構造IIに変化することが観測されました。
構造Iと構造IIが混在できるのは、173 bar という高圧下では両者の構造を維持する安定度に差がないためで、低圧下では、構造IIの方が安定するため、構造IIだけが存在することがわかりました。

次に、構造IIについて、ケージ内に吸蔵されたCO分子の空間配置を最大エントロピー法 (Maximum-Entropy Method: MEM)という解析方法を用い調べてみました。
その結果、512ケージ(CO一分子を吸蔵)、51264ケージ(CO二分子を吸蔵)のいずれにおいてもCO分子はケージの中心には存在せず、その周辺で不規則分布していることを突き止めました。
MEM解析により、512ケージ中ではCの核密度がケージの中心から離れた位置にドーナツ状に分布している状況が可視化できました(下図b上)。
また51264ケージ中では、COは中心から離れた位置で12通りの配置を取っており、穴の空いたサイコロ状にケージの中心位置を囲んでいます(下図b下)。これらの結果は、分子動力学(MD)シミュレーションの計算結果(下図c)と良く一致していることがわかります。

上記のようなCOの顕著な不規則分布は古典的構造精密化法であるRietveld法3) では解析が困難であり、実質的に単位胞内の核密度で結晶構造を表現できるMEM法が大変有効であることがわかりました。

4. 結論

これらの結果から、分子の大きさと電子数が互いに同程度のN2とO2のガスハイドレートが構造IIを好むのに対し、COはまず構造Iを生成し、減圧により構造IIに変化することがわかりました。この構造IからIIへの変化は、CよりもOの方が電気陰性度4) が高いため双極子モーメント5) が生じ、同じく双極子モーメントを持つ水分子(H2O)と相互作用が生じたためと考えられます。

本研究により、COハイドレードの結晶化挙動と結晶構造の詳細を解明することができました。太陽系の外惑星には様々なガスハイドレートが存在しており、本研究で得られた成果は、原始太陽系星雲や土星の衛星であるタイタンに代表される外太陽系の天体の形成過程や地球温暖化ガスの分離の研究に資することが期待できます。

この研究は、Nature Communications, 5, Article No. 4128 (2014) に論文として掲載されました(オープンアクセス)。
DOI: 10.1038/ncomms5128
Encapsulation kinetics and dynamics of carbon monoxide in clathrate hydrate 

5. 最後に

本研究はロスアラモス国立研究所(LANL)、中国科学院、ネバダ大学、パデュー大学、物質・材料研究機構による国際共同研究の成果です。COハイドレートのTOF粉末中性子回折6) データはLANLのロスアラモス中性子科学研究センター(LANSCE)に設置されている装置 the high-pressure preferred orientation diffractometer (HIPPO)で測定しました。物質・材料研究機構 量子ビームユニットの河村幸彦(現所属:CROSS)と泉 富士夫(CROSS客員研究員を兼務)は2005年以来蓄積してきたTOF粉末中性子回折データのMEM解析技術をLANSCEに供与するとともに、3年にわたり継続的に技術指導し、本研究に貢献しました。

 

用語説明

1)  ガスハイドレート
水包接化合物とも呼ばれ、水素結合で形成された水分子のケージにゲスト分子が入り込んでいる。メタンハイドレートやCO2ハイドレートに代表されるように、通常、高圧下で生成する。
2)  最大エントロピー法(MEM)
「不確かさ」の尺度である情報エントロピーSを一定の制約条件の下で最大にするような分布を決定するための一般的データ解析法である。回折データへの応用においては、観測構造因子Foが誤差の範囲で計算構造因子Fcとできるだけ一致するような分布が得られる。
従来の解析方法だと計算により得られた原子の密度が誤差によって負となる場合があるが、MEM法の場合は密度が負にならないように制約があり密度が負にならず、なおかつゼロでない非観測反射の構造因子を推定できるという利点がある。中性子回折データに適用する場合、一部の原子(団)が著しく不規則に分布する結晶性物質の構造精密化に適している。
河村と泉はTOF粉末中性子回折データにMEMを適用するためのプログラムAlchemyを開発し、その有効性を確認した。
3)  Rietveld法
粉末試料のX線・中性子回折データを非線形最小二乗法で解析することにより構造パラメーター(分率座標、占有率、原子変位パラメーター)と格子定数を精密化する方法。世界中に広く普及しているが、原理上、原子(団)の顕著な不規則分布や非調和熱振動の解析には適していない。
4)  電気陰性度
分子内の原子が電子を引き付ける強さ
5)  双極子モーメント
微小な距離だけ離れた大きさの等しい1対の正負の電荷や磁極をさす双極子の強さを表わす量。一般的には空間内の電荷密度を ρ(r) とすると積分 p=∫ ρ(r)r dv で定義される。分子の双極子モーメントは分子の電気的特性を示す。
6)  TOF粉末中性子回折
加速器で高エネルギー状態にしたパルス状プロトンビームを重金属ターゲットに当て、核破砕(spallation)により飛び出した中性子を測定試料に照射し、回折ビームの強度を観測する。TOF中性子回折では様々な速さ(エネルギー)をもつ白色中性子ビームがパルス状に発生するため、中性子がターゲットから試料を経て、検出器に到達するまでの飛行時間tの関数として回折強度を測定する。